広報よこはま 金沢区版 令和7年2月号 NO.328





金澤歴史万華鏡
県立金沢文庫へのいざない

第六十八回
中世東国の『大般若経』転読

県立金沢文庫 学芸員 櫻井 唯(さくらい ゆい)

 富岡八幡宮(とみおかはちまんぐう)の別当寺(べっとうじ)であった慶珊寺(けいさんじ)には、足利尊氏(あしかがたかうじ)の発願(ほつがん)により刊行された『大般若経(だいはんにゃきょう)』が所蔵されています。唐の玄奘三蔵(げんじょうさんぞう)が翻訳した『大般若経』は、六百巻からなる大部の経典であったため、本文の読経を省略し、題目と巻数だけを読み上げる「転読(てんどく)」という方法で読まれるようになりました。経本を扇のように空中で広げながら読む「転読」には、国家を守護し社会を安定させ、さまざまな願いを叶えるなどの効験(こうげん)があるとされています。
 県立金沢文庫が管理する国宝「称名寺聖教(しょうみょうじしょうぎょう)」には、南北朝時代に作られた『大般若経』転読の作法書が残っています。そのなかには「関東安穏、諸人快楽(けらく)」のために転読を行うとあり、中世の東国の人々が『大般若経』に込めた願いをうかがい知ることができます。

国宝 大般若結願作法(だいはんにゃけちがんさほう)(部分) 南北朝時代 称名寺


特別展「慶珊寺と富岡八幡宮の名宝─『大般若経』が語る中世東国史─」
日時:2月7日(金)~3月23日(日)9時~16時30分(入館は16時まで)
費用:一般500円(400円)、20歳未満・学生400円(300円)、65歳以上200円(100円)、高校生100円 ※中学生以下、障害者は無料 ※()内は20人以上の団体料金
休館日:毎週月曜日(ただし2月24日は開館)、2月12日(水)、2月25日(火)、3月21日(金)

問合せ:県立金沢文庫(金沢町142) 電話:701-9069 ファックス:788-1060